本上まなみの目合シーンが下手、映画『群青の夜の羽毛布』

     磯村一路監督映画『群青の夜の羽毛布』(2002年公開)を観た。ホラー風のホームドラマといううまい作りなのに、目合シーンが下手すぎて台なし。
     住宅地の坂。キャスター付きキャリーバッグを引く本上まなみ。小日向文世の独白。コートを着た人の引きの画。階段、庭から居間にカメラが移り、廊下。本上が耳を抑えながらベッドの上に座っている。カメラ目線でタイトルどーん。と同時に本上の映像が油絵風になる。この冒頭シーン、映画を見終わらないと何が起こっているのか理解できない。丁寧な作りだけど少々残念。
     でまあ、スーパーでバイトしている玉木宏と本上が出会ってから話は転がっていくのだけど、微妙にホラー風味。
     廊下の奥から聞こえてくるトイピアノの音。玉木が廊下を進もうとするときつく禁止される。異常に料理が得意な本上の性格。暗めの室内。食事中会話がない。本上のつけ毛。ビールに混ぜられた薬。など、振っておいて回収がない前振りもあるけど、外からはうかがい知れない他人の家の秘密、みたいなものの表現として成功している。
     いやあ、兎にも角にもキャラ立ちしているのは本上の母親役の藤真利子。学校の先生をしている母親。学校では「くそばばあ」と呼ばれている(学校の映像はなし)。娘二人に対する締め付けが厳しく門限が午後10時。本上に男ができると品定め、面接で就職先や家族構成を聴き、バイクまで貸し与える。これらは親切心からではなく、玉木のことを家のローンの返済のための働き手としてしか考えていない。会話の時、相手が質問しているのに逆に質問し返すセリフ回しは非常にうまい。
     74分頃には、玉木チャレンジャーすぎる、お前はペタジーニか!という驚きの展開に。
     場面展開は月を挟んでの切り替え、並木道からの病院の廊下など、オーソドックスな手法。雨に濡れた本上が階段に座っている。階段のアップからの液体が流れての廊下の本上への場面展開にはびっくりした。ここは先を読ませない非常に早業編集でうまい。
     とまあ、うまい部分も多々見受けられるんだけど、これらを帳消しにするぐらい下手なのが目合シーン。特に、玉木と本上があることをきっかけにホテルに入る。まあ、かなり強引な展開であるけどしょうがない。車の中から場面転換したらもうベッドの上。で、玉木の回想のような感じで目合を描くのだけど、本上、発作起こしているのか?というほど下手。本上だけがあえいでいるショットが連続するのだけど撮りた方、演技ともに下手っぴー。このシーン、映画前半にあるのでかなり萎える。
     目合シーンが多い割に不自然にシーツをかぶっていてるし女優にやる気ないのがまるわかり。映画『三月のライオン』(2015/6/19掲載)に出ている由良宣子と裸の撮り方を見習ってほしい。
     他人の家にある開かずの間、女だけの家、登場する男が誰も役に立たない、厳しい母親、など、ホラー風味の面白い展開だけに、目合シーンの下手さが致命的。
     後、「だまればばあ、くそばばあ」と母親に反旗を翻す(自立する)シーンとしてうまいのだけど、ラストは意外なほどカタルシスがない。
     というのも本上、精神的には自立したかもしれないけど、経済的社会的に自立するシーンは描かれない。妹の野波麻帆と父親の小日向のその後は描かれるのに、問題の母親が描かれない。と、尻切れトンボというのか煮え切らない感じで終わる。
     できればラストはホラー風味をとことん延長して、玉木は本上と結婚する。新しい家を新築、母親と妹と住むことになり、女家族全員と肉体関係ができて、玉木が奥の部屋から出てこれなくなる。なーんていう小日向の代わりを玉木が代行する『群青の夜の羽毛布2』なんてものがあってもいいなあ、と妄想してしまう。そういった影響力はこの映画にはあるかも。目合シーンがちゃんと撮れていれば男女のどす黒い暗部までもが描けていたはずなのに、返す返すも残念。
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    グブリー川平(かびら)
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